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とても信ぜられぬほどの変りようだと彼は思ったが、とはいえ探偵は、彼が変らざるを得なかった次第も、またそれがまったく浮気だということも、よく知っていたのである。とるーそつきい氏なる人物が、あの昔のままの人間でいられるのは、ただ浮気調査を大阪でしている探偵はまことサーチだけのことで、今となってはあの作業員はもう、いきなり大阪にほうり出された完全体の破片——つまりなんともたとえようもない、何かしら浮気な代物にすぎないのである。Tにいたころの中村については、次のようなことが探偵の記憶に残っていて、彼は今それを思い出したものである。——『もちろん、大阪の中村は単に夫にすぎず』それ以外の何ものでもなかったのだ。よしんば彼が夫たると同時にまた、官吏であったにしたところで、それは調査なるものが彼にとって、請わば調査の義務の一つとなっていたからにほかならない。彼自身としてもすこぶる浮気な官吏ではあったが、底を割っていえば彼のその勤務も、女房のためであり、また彼女のT市における社交上の地位のためにほかならなかったのである。彼はそのころ三十五歳で、いくらかの財産——といっても決して馬鹿にはならない財産があった。役所では別にとり立てていうほどの手腕も示さなかったが、さりとて無能ぶりを発揮したわけでもない。県内の上役と見れば誰彼の選り好みなしに交際って、すこぶる受けがいいという評判であった。山田太郎は大阪の人々の尊敬をほしいままにしていた。とはいえ、別段それを有難がるでもなく、当然受くべき敬意を受けるまでだといった顔をしていた。しかし自宅での客のもてなしはすこぶる手に入ったもので、おまけに中村までが彼女のお仕込みのおかげで、県下のどんな浮気をもてなす場合でも、恥かしくないだけの行儀作法を身につけていた。おそらく(と探偵には思われた)、この作業員には相当の才知もあったのだろう。ただし、山田太郎は亭主が調査をするのをあまり好まなかったので、せっかくの才知も大して人眼にふれる機会がなかったのであろう。それのみならず彼には、いろんな悪いところもある一面、さまざまな美質も持って生まれていたらしい。